2018年6月29日金曜日

耳すま・読書・穏当

 「僕等は瞳を輝かせ、沢山の話をした」で、「僕の中の杉村」というフレーズを生み出した。世の中で当たり前とされることがなぜか自分だけうまく理解できない(したくない)ときに、「耳をすませば」の杉村の、あの神社での、雫への告白に繋がる、夕子の乙女心の機微が理解できないときのセリフ、「わっかんねーよ!」を思い出し、自分の中の杉村が発動した場面で用いる。
 要するにこれは、別に誰としているというわけでもないが、僕の心の中で捺されるLINEスタンプのようなものだな、と思った。それなのでLINEで「耳をすませば」のスタンプを検索したのだが、残念ながらなかった。なんでないねん! と思った。「わっかんねーよ!」以外にも、「耳をすませば」はスタンプにできるフレーズがいくらでもあるというのに! もしもあったら、初めてLINEスタンプというものを購ってやってもいいと思ったのに!
 というわけで、別にジブリの社員でもなんでもないのだが、もしも「耳をすませば」のLINEスタンプの製作を担当することになったら、という想定のもと、基本的な数であるらしい24スタンプのフレーズを選んでみた。
 1、「粗忽」(雫)
 2、「今日はいいことありそう」(雫)
 3、「好きな人いる?」(夕子)
 4、「ひでえなあ」(杉村)
 5、「さて、どうしてでしょう」(聖司)
 6、「コンクリートロードはやめたほうがいいと思うよ」(聖司)
 7、「やな奴やな奴やな奴!」(雫)
 8、「彼氏?」(雫)
 9、「バカ!」(姉)
 10、「おーい、答えてよ」(雫)
 11、「あーあ。せっかく物語が始まりそうだったのに」(雫)
 12、「そうか、お嬢さんはドワーフを知っている人なんだね」(おじいさん)
 13、「お前の弁当、ずいぶんでかいのな」(聖司)
 14、「ちがう、お前なんかじゃない!」(雫)
 15、「ギリギリだぞ!」(杉村)
 16、「聞いて聞いて!」(杉村)
 17、「なによ、完璧に無視してくれちゃって!」(雫)
 18、「よろしい」(雫)
 19、「ほんとは自信ないんだ」(雫)
 20、「ちょっといいかな」(杉村)
 21、「なにその顔?」(雫)
 22、「この意味、わかるでしょう」(雫)
 23、「わっかんねーよ!」(杉村)
 24、「あんたのことが好きなのよ!」(雫)
 25、「そんな、俺、困るよ!」(杉村)
 26、「だって俺、俺、お前のことが好きなんだ!」(杉村)
 27、「えっ。や、やだ……、こんなとき冗談言わないで」(雫)
 28、「冗談じゃないよ。ずっと前から、お前のことが好きだったんだ」(杉村)
 29、「だめだよ、私は……、だってそんな」(雫)
 30、「俺のこと嫌いか? 付き合ってる奴がいるのか?」(杉村)
 31、「付き合ってるひとなんかいないよ」(雫)
 32、「でも……、ごめん!」(雫)
 33、「待てよ! はっきり言え」(杉村)
 34、「だって、ずっと友達だったから」(雫)
 35、「好きだけど、好きとかそういうんじゃ……」(雫)
 36、「ごめん、うまく言えない……」(雫)
 37、「ただの友達か? これからもか?」(杉村)
 38、「そうか……」(杉村)

 杉村のことが好きすぎて、映画の前半部で大幅に24を超過してしまった。まあこれ以降はそんなに杉村は出てこないので、このあとの名台詞と言えば、雫の母による「それって今すぐやらなきゃいけないのことなの?」くらいのものなので、なんとかなるだろう。

 読書熱がとても下がっていて、特に一般小説に関しては、読む意味がまったく分からない次元に突入していて、だから適当な新書なんかを読んでいたりするのだけど、こうなってみて初めて解ったこととして、これまでの人生で小説を読んでいて、「なに読んでるの?」と人から訊ねられ、特に読書が好きでもないだろうその相手に、「○○だよ」と小説のタイトルを答えたら、「ふーん」という気のない反応が返ってきて、どないやねん、と憤慨する、ということがたびたびあったけれど、あの質問というのは、本=実用書というイメージの下になされたものだったのだ。まさかフィクションなんか読むはずがない、そんなものは国語の教科書に載ってるやつであり、あるいはテレビドラマになる前の段階のやつであり、そういうんじゃなくて、本というのは、確固たる目的を持って、「人前であがらなくなる方法」とか、「お腹が凹む」とか、「お金がみるみる貯まる」とか、そういう情報がまとまったものだろう、だから、お前は今どんなことに興味があってどんな情報を求めているのか知りたくて本のタイトルを訊ねたのに、小説ってお前、なんだ、小説ってなんだ、目的はなんだ、目的なんてない? なんで目的もなく本なんか読むんだ、不審人物かお前は、という、そのくらいの齟齬が、僕のこれまでの人生の、あのやりとりの中には毎回あったのだ。それまで在った立場から離れてみて、やっとそのことが解った。

 トランプ大統領のサインを練習していることを、職場でこそっと人に打ち明ける。「へ、へぇー」という、ちょっと困ったげな反応をされた。「ですからなにかアメリカ大統領のサインが必要なときは言ってください。調印してあげます」と続けて言ったら、「うん。考えとく。どうかなあ、なにかあるかなあ」と、またちょっと困ったげな反応をされた。いい人だな。大人として穏当な対応と言うべきか。僕だったら面倒くさくてキレていると思う。