2024年10月20日日曜日

いい趣味・韓ドラ・作業

 前に義母と義妹に会ったときに、どういう話の流れだったか、「トップバリューの鈴カステラがとてつもなくおいしい」ということを語ったのである。相手にそこまで言われれば、「それならいちど食べてみたいものだ」と相槌を打つのは、対話として当たり前のことで、しかし世の中の人はなかなかそれで本当に買って食べるということはしないものだから、そのあと自分が買ったついでに、ひと袋を実家にプレゼントしたのだった。ちょうど義妹が10月中旬に誕生日だった、というのもよかった。税抜き98円。
 それから数日して、また顔を合わせたときに、「鈴カステラは食べたか」ということを訊ね、それに対して向こうが返事をする前に、「おいしかったろう」と言葉を重ねた。結果、「うん、甘くておいしかった」という、それ以外許されないだろ、みたいな答えが返ってきたので、満足した。
 たぶんふたりは、長女の夫がひとりで上げに上げたハードルを飛び越えるほどには、トップバリューの鈴カステラに感動しなかったろうと思う。それはそうなのだ。鈴カステラを数年ぶりとかに食べた人に、簡単に感動してもらっては困る。鈴カステラってそういうもんじゃない。僕はモロッコあたりの伝統食であるクスクスを食べたことがないが、もし今後、食べる機会があったとしても、クスクスという食べ物の情趣は、いちど食べたくらいでは理解が及ばないに違いない。そういうものだ。ものの価値は、それなりの蓄積と素養がなければ、享受できないのだ。もしかしたら僕は、その蓄積と素養に裏打ちされた特権思想、自分は価値の解る人間であるということを実感したいがために、トップバリューの鈴カステラをこれでもかと賛美した上で民衆に与える、という行為をしているのかもしれない。だとすれば、なんといい趣味か。

 ファルマンに強く勧められたので、僕も『愛の不時着』を観はじめている。キプチョゲ並みのハイペースで全話を観終えたファルマンに対し、ビギナーの市民ランナーのような速度でゆったりと観ている。そのぶん景色がよく見えるかと言えば、キプチョゲと市民ランナーがそうであるように、別にそんなこともない気がする。そもそも熱量が違うのである。
 ちなみに、いわゆる恋愛ロマンス的な韓流ドラマを観るのは、これが初めてなのだけど、たぶん『愛の不時着』というのは、大ヒットしただけあって、韓流恋愛ロマンスのエッセンスが高純度で上質に含まれているのだろうと思うが、観ていて、なるほど世の中の(元)乙女たちが韓流ドラマにハマるのは、こういう要素に拠るものか、と得心している。それはまあ、ズキューンと来ちゃうよね、と。
 しかし翻って、妻たちにこんな世界に憧れを抱かれちゃあたまらないな、とも思った。
 僕は今からどうしようもない喩えを言う。きちんと断ってから言う。「こんなことを言うとセクハラだって言われちゃうけど、」という前置きをしてから言うセクハラ発言はセーフ、という意味のよく分からないあのテクニックの応用である。
 韓流ドラマってあれ、床オナじゃないですか。
 あんなものに慣れられてしまったら、現実の刺激程度では反応できなくなると思う。これは男がAVを観るのとは違う。男は物理的な快楽しか求めていないから、床オナのような行為をしない限り、AVと現実は両立する。でも女性の場合は、「女の子のいちばんの性感帯は頭の中にある」という言葉があるように、韓流ドラマによってもたらされる精神への快感は、現実での性的な行為をした場合に注がれるのと、同一の容器に充填される感がある。そうなってくると、現実はもう手も足も出ない。床オナのもたらす強い刺激に対して、現実のそれはあまりにも締まりが悪いと思う。

 今年もはじめた。なにをって。この時期にはじめるものといったらひとつしかない。cozy ripple名言・流行語大賞のための1年間の日記読み返し作業である。
 ここ数年、今年はそこまで記事数もないし、そもそも昔のように、意識してオリジナルの言い回しを生み出そうという熱情があるわけでもないので、挙げられるような候補語がほとんどないかもしれない、と不安を抱きながら作業に取り掛かるのだけど、やりはじめたら、なんだかんだで、あるのだ。日々まじめに生き、減ったとはいえ毎月最低10記事はやろうとしているので、そういう人の所に、キラリとした言葉は、どうしたって舞い降りる。そういうものなんだと思う(もちろん本人のセンスによるところも大きい)。
 それにしても、自分の日記ばかり読んでいる。おもひでぶぉろろぉぉんでは2008年の日記を読み、大賞ではこの1年の日記を読み、さらには先日プール習慣をはじめた時期について言及した2019年あたりの日記がやけにおもしろく思えたのでその頃の日記も読んだりして、本当に僕は僕の日記ばかり読んでいる。表現とはオナニーであるならば、僕の主食は、僕の射出した精液なのかもしれない。へー、パピロウのってこんな味なんだね。