2018年8月28日火曜日

電動・脱ぎ・虫

 電動歯ブラシがやってきて、使い始めた。最初は戸惑い、歯磨き粉を盛大に洗面台の鏡に散らした。翌日からでも職場に持っていく心積もりがあったが、もう少し練習をしてからがよさそうだ。
 それにしても震えている。1分間に35000回である。数えたわけではなく、アマゾンの商品紹介の欄にそう書いてあった。歯医者に「安物でも手よりいいよ」と言われたことをファルマンに話したら、「負けないし」と言って小刻みに歯ブラシを震わしてみせたが、あれはたぶん1分間に80回くらいだと思う。つまり1分間ごとに34920回の差がつくということだ。その圧倒的な数字が嬉しい。マウントして得られる幸せなんて嬉しいか。もちろん嬉しい。ファルマンが手動で僕の1分間の震動を歯に与えようと思ったら、437分半かかるのだ。7時間と17分半かかるのだ。それがこれなら1分。選ばれし民になったような心持ちだ。なんて汚い心持ちか。

 中国人の女の子たちの間で、TikTokで服を脱ぐのが流行っている、という噂を聞きつける。聞きつけるもなにも、YouTubeのやつが密告してきた。旦那好みの話題ですぜ、とトップページに並べてきたのだ。それで知るところになった。僕好みの話題だった。
 15秒の服を脱ぐ動画は、音楽に合わせて、トップスを次々に脱いでいくのだが、もちろんそこまで脱ぐわけではない。はおりものを脱いで、ブラウスを脱いで、Tシャツを脱いで、せいぜいがキャミソール姿までだ。そしてそれ以上を脱ごうとすると、周囲の友達や彼氏らしき人物が制止する、というのが定番の流れらしい。オリジナリティの欠如と言ってしまえばそれまでだが、誰かが最初にやった名作が模倣されて一種のソフトとなって、誰でも参加できるようになるのが、TikTokのいい所だと思う。つまりこれはパラパラの現代版なのだな、と思う。
 それにしたって「服を脱ぐ」である。すばらしいと思う。規制されるような過激なものではない、というところがいい。ある種の動画サイトのように、過激さばかりで競うようになり、エロ目的の気持ち悪い人種が集うような不健全空間になるのではなく、女の子がキャミソール程度の薄着になっていくという、そのかわいさ。ほのエロさ。そうそう、そこだったんだよ! と膝を打った。ブームが日本にも上陸し、大盛り上がりになればいいと思う。

 職場にゴキブリが出て、誰かしらが退治をした。それで、家にゴキブリが出たらどうしてるか、という話になって、各人がそれぞれのスタンスを話す中で、僕が「妻は田舎者のくせに虫が駄目で、仕方なく都会出身の僕がスプレーで処理している」と言ったら、周囲の人間は岡山県育ちの田舎者ばかりで反感を買った。「田舎の人間だって別に虫とそんなに触れ合うわけではない」と怒られた。たしかに理性的に考えればその通りなのだ。田んぼにサギがいるとか、道路でタヌキが轢かれて死んでるとかは、田舎ならではの風景だと言えるけれど、虫に関して言えば、もっと小規模なスケールで発生するものなので、田舎の中の人工空間にはあまりいないし、都会の中の自然空間にはわんさかいる。だから実は虫への耐性と出身地はそんなに関係ない(北海道にゴキブリはいない、みたいなパターンはある)。理性的に考えればその通りなのだが、しかし理性的ではなくイメージでふわっと、都会出身の僕が考えるところとしては、田舎者は虫とちょっと心くらい通わせられるはずじゃないのか、と思うのだ。なんか虫のおかげで救われた的なエピソードのひとつやふたつ、田舎育ちのお前らは持ってるんだろう、などと思う。だから虫が苦手と言われると、ちょっと釈然としない気持ちになるのだった。我ながらひどい心性だと思う。