2024年6月4日火曜日

太宰・得意料理・在庫

 義両親から先日の青森旅行のおみやげを受け取る。ふたりとも太宰治にはそんなに馴染みがなかったのに、太宰ファンの長女から「ぜひ斜陽館に行きなよ」と勧められ、行ったら行ったで本人たちもそれなりに愉しんだようだが、しかしこの出来事でいちばん得をしたのは、そこでしか手に入らない太宰治グッズをせしめた策士の長女であることは間違いない。「太宰治かるた」などという面妖なアイテムをゲットし、ほくそ笑んでいた。和気あいあいとやるゲームであるかるたと、あの太宰治という取り合わせが、なんとも悪趣味で、すばらしいと思った。他に人間失格カステラサンドなるお菓子なんかもあった。それらを開陳しながら、義母から「パピロウちゃんも太宰治は好きなの?」と訊ねられたので、「いいえ。僕はぜんぜん好きじゃないです」と即答した。相変わらずぜんぜん取りつくろったりしない義理の息子。ちなみに僕へのおみやげは、それとは別の場所で買ったらしき、ねぷたがデザインされたTシャツで、普通にかっこよいものだったので、嬉しかった。おそらく斜陽館には、「生まれてすみませんTシャツ」なんかも売っていたことだろうと思う。よくぞそっちに逃げず、ちゃんといいものを選んでくれたものだ。

 先週末、ポルガが部活でがんばったので、「晩ごはんはポルガの食べたいものを作ろう」と提案したところ、「じゃあ、たこ焼きか餃子かお好み焼き」という答えが返ってきて、嬉しい気持ちになる。こちらが前のめりで作るものが、きちんと思春期の娘の嗜好に刺さっていたのだな、という喜びである。思春期の娘に自分の行ないが受け入れられたことを喜ぶって、なんか我ながらすごいな。近ごろ自分が20代半ばだった頃の日記を読んでいるので、ことさらに感慨がある。結局その日は、たこ焼きを作った。おいしかった。
 ちなみにファルマンは、僕とポルガのこのやりとりを横で聞いていて、小さくショックを受けていたらしい。ポルガの口から出たリクエストが、すべて僕の作るものであったからだ(まあ前提として週末の料理当番が僕だから、というのはある)。
 「平日はずっと私が料理を作ってきたのだ。私にだって得意料理はある」とファルマンは主張した。主張をしたが、具体的な料理名がとんと出てこなかった。仕方がないので、僕とポルガがふたりがかりで、ファルマンの得意料理を挙げることにした。「ほら、干物を焼いたやつとか」。「ほら、キャベツをざく切りしたやつをレンジで蒸したやつとか」。ファルマンの眉間の皺が、どんどん深くなってゆくのが見て取れた。

 これまでファルマンの使っていたバッグは、そもそ僕がネットで買って、いまいち気に入らなかったものだったのだけど、それがなにぶん安物なのできちんと処理されていない布端がほつれてきて、そろそろ替えないとな、という話になった。それでファルマンというのは、欲しいバッグというものがこの世に存在しない人間なので、「そう言えばあなたが売るために作って売れずに残っているバッグがたくさんあったよね」、などと言い出す。言い出すのはいいが、物言いが失礼である。
 まあある。嵩張るし、あまり目にしたくないので、クローゼットの奥にしまい込んで、意識からなるべく遠ざけていたけれど、かつてminneに出品した、トートバッグも、グラニーバッグも、需要に対して供給ばかりが過多で、たくさん在庫を持っているのだ。
 作るとき、一点を集中して作るよりも、同じものを複数、同時進行で作るのが好きだという性分があり、ひとつの柄で5つくらい作ってしまう。そしてそれがひとつも売れなかったりする。だから在庫ばかりが増える。
 バッグの山を発見したファルマンは、その中のひとつを「これいいじゃん」と言って選んでいた。ちなみにかつての売値は3800円であった。持ってけ泥棒である。
 バッグほど体積が大きくないけれど、Yahoo!フリマに出品しているボクサー水着も、在庫は既に15を超えている。こちらは親類に配ることもできないので、最後どうなるんだろう。どうなるもこうなるも、ある瞬間から売れに売れて、供給が追い付かなくなるに決まってるのだけれども。