2025年5月1日木曜日

俳優・万博・赤黒茶紫

 夜ふたりで「べらぼう」を観ていたら、ファルマンが「この人って俳優?」と画面を指して訊ねてきた。画面には平沢常富役を演じる尾美としのりが映っていた。「俳優だよ!」と答えたけれど、考えてみたら大河ドラマに出ているのはほぼ俳優である。「そうなんだ。どうりで演技が上手だと思った」とファルマンは納得したふうだった。いったいなにを言っているのか。
 先日「侍タイ」を観たとき、知っている俳優がひとりもいない映画って新鮮だと言ったら、ファルマンは「私はいつもだよ」と言っていたが、本当にそうらしい。尾美としのりについて、「私が観てたものに出てた?」と訊ねてきたので、「いろいろ出てるよ。「あまちゃん」にも出てたし」と言ったが、ピンと来ないようだった。たぶん、ファルマンは尾美としのりを尾美としのりとして見ずに、いまは平沢常富として観ているし、「あまちゃん」の頃は主人公の父親のタクシー運転手として観ていたのだろう。それは物語を味わう上で、とても健全で、よろしいことだと思う。でもそれが僕にはどうしたってできない。
 ファルマンは続けて、画面に映る人をどんどん訊ねてきたので、「石坂浩二だよ!」「宮沢氷魚だよ!」「渡辺謙だよ!」と驚きとともに答えた。俺の妻、ケン・ワタナベも分からないのかよ。マジかよ。宮沢氷魚に関しては、「なんでこんな人まで知ってるの?」と訊いてきたので、「あなた、「ちむどんどん」観てたんでしょ。「ちむどんどん」の相手役で、黒島結菜との間に婚外子を作った、THE BOOMの息子だよ!」と説明したら、「え、なに言ってんの? あなた、いったいどういう気持ちでこのドラマを観てるの?」と逆に白眼視されそうになったので、「間違えたよ、田沼意次の息子だよ!」と慌てて言い直した。
 そんな中、ファルマンが唯一、「この人は分かる」と言った出演者がいた。
 原田泰造だった。
 大方の視聴者っていうのはこういうもんなのかな、と思った出来事だった。

 義父母が、大阪万博に行くらしい。いつなのかは忘れたが。大阪万博、自分とはまったく関係がない話として、完全に無視を決め込んでいたけれど、そうか、たしかに義父母は行くか、行くよな、東京オリンピックも幻の観覧応募をしていたもんな、と思った。
 無視と言ったが、完全にフラットかと言えばそんなことはなく、オリンピックと同じで、どちらかと言えば嫌悪しているのだけど、しかし義父母が万博に行くことに関し、異議を唱えようとは思わない。行きたい人間はいくらでも行けばいいんじゃないか、と思う。
 我ながら大人になったな、と思う。たぶん30代前半くらいの僕だったら、行くのを止めることはしないまでも(そんなことを試みようものなら、どれほどめんどくさいことになるか)、「おみやげはいらない」「みやげ話も一切聞かさないでほしい」と主張していたに違いない。いまはもう、そこまでのバイタリティーはない。前よりも僕は少し生きやすくなった。

 水着の着用写真を撮る際に用いるスライムが、だんだん劣化してきた。
 金玉肉袋A、金玉肉袋B、肉棒の3つに分けて、それぞれをラップに包んで使用、および保管しているのだが、スライムというのはいかんせん半分液体なので、時間が経つとラップの隙間から液体部分がスルスルと流れ落ちて、乾いて固くなったりしてしまう。そしてそういう部分を捨てると、だんだん体積は減ってきて、それはブランド理念の根幹に関わる由々しき事態なのだった。
 それで、そのうちまた新たに買わないといけないなあと思っていたのだが、そんな折、ピイガの作業机をぼんやり眺めていたら、黄色のスライムがあり、手に取るとしっかりした弾力で、いい意味で瑞々しさがなく、ゴムにも似た感触の、とてもいい感じのスライムなのだった。これはなにかと訊ねたところ、「手作り」との答えで、日夜研究に勤しむピイガのスライム錬成は、もはやこの領域にまで達していたのかと驚いた。
 これなら水気が流れ出ることもなさそうだし、ともすればラップで包まなくてもそのまま使用できるくらいのマットな質感である。これはいいな、と思った。思わずピイガに発注しようかと思ったが、ひとつ問題があって、使用目的がちんこの造形に他ならないという点だ。手作りならば色も自由自在なので、そこも魅力的なのだが、そうなると注文は、「赤黒い、茶紫みたいな色」ということになる。果たしていいのか。赤黒い茶紫の、弾力のある、ちんこ模型を、11歳の娘に作らせていいのか。もちろん使用目的を明かすことはないが、それにしたってなんかしらの事由により、児童虐待とかに引っ掛かるような気がしないでもない。
 仕方なく諦めることにした。赤黒い茶紫ではなく、せめてコスモス色ならいいのにね。