おろち湯ったり館へは行かず、退勤後はいつものホームプールへと赴いた。まだ暑さは続いているのに、どうも先週の3連休が、世間におけるプールシーズンの終了であったようで、そこからガクンと人が減った。人が減って感じたのは水のきれいさで、しかしこれについて深く考えようとすると、真夏の、人口密度の高い、透明度の低い水に関して、気付いてはいけないことに気付いてしまいそうなので、よしておく。
プールに関して、話題をひとつ。
行くのがいつも同じ時間帯なので、顔見知りというのがどうしたってだんだんできてくる(決して会話をしたりはしない)わけだが、狭い町だというのに、プールで見かける人を、プール以外の場所で目にするということが、これまで完全にいちどもなかった。それはなんだか不思議なことのように思え、もしかすると僕がプールで見ているあの人たちは、プールの妖精なのかもしれない、プールを出た瞬間に光の粒になって霧散するのかもしれない、などと思っていた。しかし先日、ついに近所のドラッグストアで、プールの歩くレーンによく出没するじいさんの姿を発見したのだった。この瞬間、とても驚いた。プールでしか見たことのなかった人を陸上で見かけると、「水棲生物なのに!?」という衝撃があるのだと知った。たまに、川などの水場がそんなに近くにあるとは思えないような場所に、カニがいたりすることってあるじゃないですか。あれとまったく同じ気持ち。そしてたぶん、じいさんも同じような気持ちで、僕のことを見ていた。一瞬、しっかり目が合った。
リビングのエアコンが、10日ほど前からとぼけはじめ、音ばかりはグヮングヮンと強力そうなのに、出てくる冷気はか細くて、まあどう考えても故障なのだった。夏の間、朝から晩まで稼働しっ放しだったわけで、最後の力を振り絞って、なんとか9月中旬まで責務を全うしてくれたのだな、ただし今年の残暑のしつこさたるや計算外だったのだな、などと思った。そしてリビングのエアコンが故障しても、ぜんぜんテンションが下がらないのが、賃貸住宅のいいところで、まあリビングだけで、他の部屋のは自前ではあるのだけど、備え付けであるそれは、管理会社に連絡をすれば、修理なり交換なりを無料でやってくれるのである。今回の場合、もともとのものがずいぶんな年代物であったということで、こちらとしてもそうなればいいなと思っていた、交換となった。リビング用のエアコンと言えば、買ったらだいぶするに違いない。だいぶテンションが下がるに違いない。これだから賃貸住宅っていいよな、と改めて思った。
しかも交換日は今日と来た。家に帰ったら、轟音と半端なぬくもりで居心地の悪かったリビングが、とても静かで清廉な冷気に包まれていた。僕がこれまでの人生でもらった最も高額な誕生日プレゼントは、管理会社からのリビング用エアコンかもしれない。