2024年7月3日水曜日

ファルマンの懊悩・ブーの夢・ホイップクリームvs

 7月に入り、ちゃんと暑い。6月の終わりにやっと訪れた梅雨は、あちこちで被害はあるようだが、自分の生活圏では今のところあまり大したことなく、それよりも暑さのほうに気を取られている。梅雨がなんとか勇気を振り絞ってステージに上がったというのに、続けて暑さもすぐに現れたため、観客の目はやはりスター性のある暑さにばかり集中してしまい、梅雨は鬱屈を募らせるという、なんかそういう構図。怒らせたら怖いのに。
 こう暑いと、就寝時のエアコン操作が悩ましい。悩ましいと言ったが、横になったらすぐに寝ることで有名な僕は、実はなにも悩んでいない。悩んでいるのは、寝付くのに時間を要し、しかも汗をかかない体質のファルマンである。毎晩とても苦心しているようで、ご苦労様なことだと思う。そうねぎらいたい気持ちは、僕としては大いにあるのだけど、ファルマンのエアコン操作の懊悩においては、素っ裸で寝ている夫、というのも厄介なファクターのひとつであるらしく、意思と現実はなかなか噛み合わない。ファルマンには憂いなく快適に寝てもらいたい。でも服を着て寝るつもりは一切ない。なのでエアコンの風は細心の注意をして設定していただきたいと思う。

 おもしろい夢を見た。
 いかりや長介と、仲本工事と、僕の3人で、もちろんバラエティ的な感じの、チチチチチ、と音を立てる黒いボール状の時限爆弾を、互いに投げ合う夢。
 もうこんなの、絶対におもしろい。爆発しそうな爆弾を相手になすりつけ合うとか、おもしろいに決まってるじゃないか。なんで誰かが遠くに投げて全員で逃げないんだ、などと無粋なことを言う者などひとりもいない。長介と、工事と、僕は、恐怖で興奮しながら、時限爆弾をひたすらパスし合っていた。もしかすると、別収録のおばさんたちの笑い声もあったかもしれない。
 起きてからしみじみと、「おもしろかったなあ……」と思った。おもしろさとは要するにああいうものなのかもしれないと思った。自分が高木ブーの役回りであったことも含め、ひたすらおもしろかった。

 スーパーで売っている、4切れ入りのロールケーキがあるだろう。スイスロールではなく、中心にたっぷりとホイップクリームが入っている、300円前後するやつ。あれがたまに安くなっていたりすると、わあ、となって買って帰るのだけど、先日それが冷蔵庫で売れ残っているのを目の当たりにし、びっくりした。ロロ、ロールケーキが、持て余されてる、だと……? ファルマンに訊ねたら、
「あー、子どもたちはそこまでこういうの好きじゃないからね」
 という答えが返ってきて、ショックを受けた。
「こういうのより、ゼリーとかのほうが好きなんだよ」
 そして極めつけはこれである。
「って言うかあなたがこの家でいちばん、やけにホイップクリームが好きだよね」
 なんてこった、と思った。ホイップクリームとは、いつなんどき、どんな状況でも、最高にハッピーなものであると、人類全員においてそうであると、疑わずに生きてきたけれど、もしかしてそうではないの? それはホイップクリームが特別好きな人の考え方だっていうの? 実は僕はそっちの部類の人間だったの? 全員がこうなんじゃないの? えっ、ゼリー? ホイップクリームvsゼリー? 誰がゼリーに賭けるの? そんなのオッズがとんでもないことになるんじゃないの? そうでもないの? マジで?
 それにしても、ホイップクリームが絶対的なものであると信じて疑わない父と、実はゼリーのほうが好きな娘たち、というのが、なんだか非常におじさん的な、昭和的な、哀愁を感じさせるエピソードで、これが自分の身に起った出来事だなんていまだに信じられずにいる。