2020年1月19日日曜日

十二国記・クラT・Fっぽい

 ようやく十二国記の最新作「白銀の墟 玄の月」を読んだ。先週から読みはじめ、読みはじめたら全4冊を猛スピードで読むほかなかった。1、2巻と3、4巻が1ヶ月置いて刊行されるということで、4冊が出揃ったら読もうと思っていて、でも1、2巻が出た時点で好奇心からウェブ上のレビューを読んでしまい、そうしたら評判があまりよくないので、なんとなくテンションが下がってしまった。そしてこんなタイミングでの読書となった。4冊を読み終えた感想としては、1、2巻の時点で読むのがくじけそうになるのも仕方ないかなー、と思った。4冊一気に読んでも回避しきれずちょっとクラクラする局面があったので、これで1、2巻で1ヶ月間を置かれたら、それはつらかったろう。刊行されてすぐに読んでくれる熱心なファンに対して無慈悲な刊行形式をとったものだと思う。幸い僕は愉しめた。分かってはいたけど、この作者はとんでもないものを書くな、としみじみと思った。架空の世界で物語を書くとなったら、もっと華やかで気楽で派手なものを書こうとするもんだろう。こんな地味で細かくてせせこましいことを書くなら、もういっそ現実でいいじゃん、と思った。とはいえこれは解説の人もいっていたが、特殊設定下でのミステリ的な部分もあるので、だとすればこれは4巻目のあの場面のカタルシスのための、とてつもなく長い特殊設定の説明なのかもしれない。すさまじいことだな。今年には短編集が刊行予定とのことで、そっちは華やかな、ファン心を素直にくすぐるような話であればいいなと思う。肩の力を10分の1くらいまで抜いてほしい。

 ネットサーフィンをしていたら、受注生産のオリジナルデザインTシャツの制作販売のホームページに行きついた。受注生産のオリジナルTシャツとは、つまりクラスであったりアマチュアのスポーツチームであったり、なんかそういう集団が心をひとつにするために着用する、あれのことだ。僕の人生でこれまでいちどもなく、というか今後なんかしらの集団に所属して、おっさんおばさんと揃いのTシャツを着たってなんにも愉しくないので、高校時代に学校祭用のクラTを作らなかった時点で(そもそも男子校に進学した時点で)、僕の人生は既にこの文化とは完全に隔絶しているといっていい。そんな僕が、そのホームページを眺めていてなにを思ったかといえば、完全に架空のサンプルなのか、あるいは実際の制作例なのかは判然としないが、何点か表示されているそのクラT、それを買って着たいじゃないかよ、ということだ。たぶん美術部の奴とかがデザインしているので、それなりによくできていて、若者らしいまっすぐでさわやかなテイストで、そしてなにより、クラス全員のファーストネームが羅列されていたりする。ここがいい。ひとりも知らないけど、俺もこれを買って着れば彼らと結束できるんじゃないかと思う。あるいは女子校と思しき女子の名前しかないTシャツというのもそそる。それを着ているということは、じゃあ俺は彼女たちの担任なのかな、という気持ちになれる。いいなあ。実にいい。クラT部外者販売。けっこう需要があるんじゃないか。発注する高校生に対して、部外者販売をオッケーにしてくれたら割引とかにすればいいのだ。ウィンウィンではないか。ちなみにメルカリにクラTって出品されてないのかな、と覗いたがさすがになかった。

 最近ちょっと字を書いたり絵を描いたり、努めてそういうことをしているのだが、久しぶりに絵を描いて思ったことに、僕は相変わらず本当に動きのある絵が描けない。マネキンのように、直立している絵しか描けない。それに対し、近ごろドラえもんの絵ばかり描いているポルガは、それは要するにF先生の模写なので、シンプルながらも絵に動きがあり、羨ましく思う。僕も小学生の頃、ドラえもんの絵ばかり描いていたのだが、基本的に頭部の絵しか描かない子だった。もうその時点から、能力的なものは露呈していたということだろう。
 先日、動きのある絵の代表として、走っている絵が描けるかどうか、という話になった。ちなみに僕は描けないのである。ファイナルファンタジーのサボテンダーみたいなのしか描けない。それはつまり、「走っている人」のマネキンでしかないということだ。ところがポルガは「描けるよ」といって、スラスラと鉛筆を走らせはじめた。それで、マジかよすげえなあ、と思って眺めていたら、ドラえもんやのび太の顔がみんな正面を向いているではないか。「いや、走ってる絵を描けよ」と指摘したら、「走ってる絵だよ」と答える。どういうことかと思っていたら、紙の画面奥からこちら側に向かって走ってくる構図の絵だった。走ってる絵というお題でそのショットを描くかよ、と驚愕した。泳いでいる魚の絵が、得てして左向きに泳いでいるものであるように、走っている人の絵は、右から左に向かって走る様を描くものだと決めつけていたので、とても意外だった。振り上げている手なんか、ちょうど水平になっている袖の部分が、正円で表現されていた。なんかFっぽい、そんな部分ちゃんと見たことないけどたぶんFっぽい、と思った。