先週末、久しぶりに髪を黒くして、だいぶ後悔し、しかし数日すればあまりの真っ黒も少しは緩和されるだろうし、なにより自分も慣れてくるだろうと思っていたのだが、残念ながらそうはならず、日に日に嫌気が増している。娘らからの評判も悪く、精神的に参りはじめた。本当に、なんで黒髪になんかしてしまったのか。
ファルマンは「悪くないよ」などと必死にフォローしてくれるのだが、それは僕の気持ちを落とさないようになんとか持ち上げようとしているだけで、本心でないことは見え見えだ。なにより、主観でも客観でもない絶対的な評価として、本当に似合っていないのだ。すごく変なのだ。金髪の頃のほうが本当によかった。
そんなことを言い募っていたら、ファルマンも気が緩んだのか、本音をこぼした。
「まあたしかに、黒髪にすると、あなたの根暗な本性がバレる感じがあるかもね」
20年寄り添った妻というのはさすがのもので、「黒髪やだー、変ー」などと唱える娘たちなんかよりも、よほど的確に、こちらの心を抉ってくるのだった。
そうか、そうだな、俺は心根の暗い部分を照らすために、髪の色を明るくしていたのかもしれないな。だから黒くしてしまった今、こんなにも落ち込んでいるのだな。
とにかく一刻も早く髪の色を抜きたい。でも毛髪への負担を考えると、さすがにすぐというのは恐怖が勝つ。髪を短くして、新たに伸びた髪の毛の比率を増やして、なるはやで処置しようと思う。心を救ってやらないといけない。
いつものようにBloggerの投稿ページを開いたら、「新機能のお知らせ」というメッセージが表示されたので途轍もなく驚いた。Bloggerからメッセージが届いたのって、これが初めてのことではないのか。
前から言っているけれど、僕はBloggerを、いまはもう誰も住まなくなった廃墟で勝手に遊んでいるような気持ちで使っている。あのGoogleが、2025年の今、ブログサービスなどというものを運営しているはずがなく、削除し忘れているだけなのだと。
だからメッセージを目にした瞬間、ビクッとした。俺だけのユートピアだと自由に振る舞っていたら、実は監視カメラで撮影されてモニタリングされていた、みたいな衝撃だった。
またこの新機能というのが、あまり自分に関係なさそうなのできちんと把握していないのだけど、ブログの文面に現れたキーワードを読者が検索しやすくなるように自動でリンクにする、みたいな、なんかそんな機能らしく、いやそれってはてなダイアリーじゃん! と思った。なんかもう本当にBloggerのやることってよく分からない。とても商売でやっているとは思えない。やっぱりこれは、採算とかの概念から逸脱した、異様に清らかで尊い世界なのではないか、という気がするのだが、実際はどうなんだろう。
北海道で、全裸で外に出ていた男が逮捕された。
警察の調べに対して男は「月を見るため」と供述したそうで、なんかハッとした。どういうハッなのかと言えば、「病気の子どものために薬代を恵んでください」と頼まれて金を渡したあと、周囲の人から「バカだなあ、あんなの嘘に決まってるだろ」と言われ、「そうか。よかった。病気の子どもはいなかったんだ」とつぶやくという、あのエピソードのようなハッである。うす汚れたものばかりのこの世界で、とても稀有な美しいものを目にしたという、そんな気持ちである。
夏目漱石が「I love you」の訳を「月がきれいですね」にした、という嘘くさいエピソードがある。それも連想する。月はわりとなんでも受け入れてくれる。
ただ裸でうろついて、女学生の前に進み出たりしたら、それは逮捕しなければならないけれど、ただ月夜をうろついていて、そして駆けつけた警官にその回答をしたのならば、本官は許すべきだろ、と思う。逮捕なんて野暮なので、本官は見逃すでありますだろ、と思う。草間リチャード敬太は逮捕しても、69歳男性は許してほしい。年齢も実にいい。