帰省初日の出来事なのだけど、一家の荷物を、滞在中あてがわれている部屋にとりあえず置いて、「おこめとおふろ」に書いたように、僕とファルマンは電器屋へと出掛けたのである。その間、子どもたちはすっかり慣れたもので、母や叔父に見守られながら、Wiifitなどして過ごしていたらしい。Wiifitというのが悲劇の引き金だった。無駄にジョギングなどするものだから、長袖を着ていたピイガは汗だくになったという。それで母は、かわいそうだから半袖に着替えさせてやろうと思い、部屋に置かれたキャリーケースの中を探った。しかしそのキャリーケースは、帰省のあとそのまま出張へ行く僕の荷物専用のものであり、探せど探せど子どもの服は入っていない。入っているのは、34歳の息子の衣類と、そして数冊のエロ小説だけなのだった。そうなのだ。エロ小説なのだ。出張で、移動時間も長いので、それはエロ小説の1冊や2冊、2冊や3冊は、荷物の中に入れてくるに決まってるじゃないか。そんなこと言ったってしょうがないじゃないか(えなり)。子どもたちの服は実はファルマンの背負っていたリュックに入っていたのだけど、なんとなくそちらの開帳は遠慮したらしく、キャリーケースの中に息子の衣類とエロ小説しか見つけられなかった母はそこで見切りをつけ、たまたま家にあった、姉の娘の服を着せていた。もちろんちょっと大きかったのだけど、はじめからそうすればよかったじゃないか。もちろん面と向かってエロ小説のことを言及されたわけではないのだが、しかし事の次第を考えれば、母がそれを目にしたことはほぼ間違いない。まさか実家を出て、家庭を持ち、34歳にもなって、オカンとエロ本のこういった出来事に遭遇するとは思っていなかった。帰省初日にして大いにへこんだ。ファルマンに話したらすげー爆笑された。
帰省初日の晩ごはんの際、義兄と話をしていて、義兄はやけに僕に対してそういうことを言うのだけど、今回もまた、「パピロウはもっと自分をアピールして創作活動をしていくべきだ」という内容のことを言われる。義兄が僕の作ったなにを見て、そこまで忸怩たる思いを抱いてくれているのかよく解らないが、ありがたい話ではある。「こういうのって人と人との縁なんだから」とも言われる。もちろんそんなことは解っちゃいるのだ。だがそこの部分が壊滅的にできないから、なにも広がっていかずにここまで来ているのではないか。「もうパピロウがやらないなら俺が動くよ」とさえ義兄は言ったが、果たして義兄は僕の作ったものをなにか持っていただろうか。ヒットくんとクチバシの絵でも描いて送ったら、数ヶ月後くらいにサンリオのキャラクターになっていたりするのだろうか。義兄ならやってくれるかもしれない。あの友達クーポンを体現して生きているような義兄ならば、この世でできないことなどなにもないような気がする。友達クーポンを使ったことがなさすぎて、未だ見ぬそれに対して無敵のようなイメージを持っている。
タブレットを携えての帰省および出張は、とてもよかった。ホテルで帰省の日記を書くこともできたし、LINEで家族と映像通話をすることもできた。かく言うこの記事だって、帰りの新幹線で書いている。簡易テーブルにスタンド台を置き、タブレットをセットして、膝の上でキーボードを打っている。やっぱりキーボードも買ってよかった。ファルマンとのLINEでも、すごく快適に文言が打てて、けれど向こうは画面上のキーを打っているので、やがて「手が疲れたからもう勘弁してくれ」と拒まれてしまった。妻が「もう勘弁」と音を上げて、夫はまだまだ元気だなんて、まるでキーボードってバイアグラのようだな、などと思った。あと写真やビデオも便利。普通にきれいだし。中川駅で降りての思い出散歩や、出張先の街並みなんかを、すごく気軽に撮影した。そして撮影しながら、「ああ俺はいま、タブレットで風景を撮影しただけで、ちょっとなんかしたような気になってるな……」と思った。この自覚だけは失わぬよう、自らを戒めていかなければならないと思う。