親知らずを抜く。さっき抜いてきた。
親知らずを抜くことになっていた今日の歯医者の予約に合わせて、くだんの左上の親知らずは、実はキャンプあたりからジムジムと最後のあがきを開始し、当日の今日なんかは、痛み止めがまるで効かないほどに大暴れしていた。思わず監督契約年最後の年にやけにいい成績を残して辞めさせにくくする野村克也を連想したが、考えてみたら親知らずは別に活躍をしたわけではない。むしろメガンテ的なタチの悪さだった。
抜歯というのが初めての経験で、抜歯抜歯と言うけれど、硬いものを噛み砕けるほどしっかりと根付いている歯というものを、一体どうやって抜くというのか、と疑問だったが、そこらへんの接続を融解させる魔法の薬があるわけではなく、なんか物理的にやっていたようだった。もちろん麻酔を十分に効かせていたため、いまいちどんな処置がなされたのか把握できていない。しかし嵌まっているものを引っこ抜くのだとしたら、力の強弱や角度など、作業者のテクニックというのがけっこう物を言うのではないかと思う。その点、今回掛かっている歯科医院の医者は、わりと優れているのではないだろうか。生え方もあるのだろうが、10分ほどでグソッと抜けた。血まみれのそれを、一瞬だけ「ほら」と見せられた。長年連れ添い、生まれた場所ゆえの不運で不良化し、僕を悩ませ、そしてとうとう排除されるに至った、かつて僕の一部だったもの。痛みの元凶が取り除かれた清々しさとともに、若干の切なさも抱いた。医者は「でかい」と言った。そうか、大きかったのか、お前。
それから軽く縫合をして、今日の治療は終わった。帰りの車中で、「早めに服んだほうがいいですよ」と言われた痛み止めを服んだ。そのおかげか、麻酔はもう切れたんだろうが、痛みはいまのところない。あまり探らないけれど、血の塊のような存在は感じる。僕はさっき歯を抜いて、いま歯茎には穴が開いているのだ。なんだか信じられない。未経験だが、破瓜ってこんな気持ちか。
いろいろなニュースに埋もれてしまって、そこまで話題に上らなかったけれど、またしても日大の、チアリーディング部のパワハラの話はおもしろかった。「悪質なタックル」や「奈良判定」などのパワーワードがなかったので、そこが弱いけれど、この出来事の最もおもしろい点は、パワハラを受けた学生が相談をした学内の部署の長が、あのアメフト部の内田監督だった、という所だと思う。よく物語などで、虐げられている主人公が、命からがら助けを求めた先には、実は既に敵の手が回っていて、善人顔で保護したフリをしつつ、こっそりと敵の大将に密告している、みたいな展開があるけれど、これってなんかそれに似た絶望感がある。もうこの町、いや、この国、いや違った、あの大学に、清廉な部分なんてどこにも残ってないんだ。逃げる場所なんてないんだ。
若者のツイッターを眺めていたら、ROUND1のことをラウワンと言っていて、ああこういう所だ、と思った。ラウワンにいちども行ったことがない僕は、ラウワンのことに言及する際、これまで毎回きちんと、ROUND1と表記していた。日本語入力のROUND1ではなく、ちゃんとアルファベット入力のROUND1と。そこがもうダメだ。いかにも童貞のやることだ。ラウワンにちょいちょい行く人は、ラウワンのことをROUND1などと言わないのだ。ラウワンと言うのだ。勉強になった。なので僕もこれからはラウワンと呼ぶ。これでまた少しラウワンで遊ぶ日が近づいたと思う。あるいはROUND1のことをラウワンと呼ぶ僕は、もう既にラウワンで遊んだことが何度かあり得てくると思う。「何度かあり得てくる」ってなんだろう。