2023年2月8日水曜日

獲得・時計・妹

 日記の読み返しが、2005年の2月6日を迎えた。すなわちcozy ripple開設1周年である。
 ちょうど節目のその日、僕は架空の生き物の生態を解説する「ikimono」という企画の50匹目として、クチバシを発表していた。なんとなく覚えているが、クチバシははじめから考えていたわけではなくて、30匹目あたりまでやったところで思いつき、これはすごいキャラクターだと瞬時に確信したので、31匹目にはせず、1周年の日の50匹目という、華やかな舞台を用意したのだった。
 この瞬間のことを、こうして18年後に読み返して、このときに僕はようやくクチバシを獲得したのだな、ということを思った。このあとヒット君も生まれるし、結婚もするし、娘たちも生まれる。いろいろ得た。大げさに言えば、自分が生きた証のようなものを。
 翻るにその以前、20歳やそこらの頃、僕は若さと自尊心以外、ほぼなにも持っていなかったのだな、と思った。渡り鳥が、身ひとつで海を越えることを、なんて無謀な行為だろうと思ったりするが、人間だって実は同じようなものかもしれないと思った。

 職場の、自分が受け持っている場所に、デジタルの置時計が置いてあるのだが、その表示時刻が狂っている。実際は10時20分なのに、表示は「07:20」。ちょうど3時間ズレている。3分とか5分とかじゃなく、3時間で、分に関しては正確なので、最初に見たときは「時差なのかな?」と思った。日本時間からマイナス3時間。サイトで確認すると、バングラデシュやブータンなどがその時差に当てはまるらしい。しかし職場にその国籍の人はいないし、以前にいたという話も聞いたことがない。でもなぜか、かの国の現在時刻を表示し続けている。毎回、目にした表示時刻に3時間を足すのが億劫なので(「11」だから、午後2時だな、などと無駄な思考をしなければならない)、時刻合わせをしようと試みたりもするのだが、なぜかぜんぜん融通が利かない。いくつかあるボタンを、同時に押したり、長押ししたり、いろいろな操作を行なったが、まるで時刻合わせを受け付けてくれないのだった。この融通の利かなさは外国製のような気がしてきた。もしかしたらバングラデシュ製なのかもしれない。仕方なく今日も頭の中で3時間を足して時刻を確認している。
 ちなみに表示画面は、5秒間隔で、その3時間遅れの時刻と、日付を交互に表示していて、日付はもうダイナミックにズレている。時計によると今は6月だ。だからそちらに関してはぜんぜん気にも留めていなかったのだが、最近になって「あっ」と発見したこととして、その日付は、15時に1日進むのだった。実際の15時、すなわち、その時計の中では「12:00」ということになるが、そこで日付が進む。ということは、この時計は3時間ズレているのはなかった。15時間ズレているのだった。なんかのトリックに使えないかな、これ。

 父が死んだらどういうことになるのだろう。
 そういう話があるわけではぜんぜんないのだが、たまに思いを馳せる。
 僕は葬式に参加するのだろうか。いや、しないよな、したところでどの立場での参加になるのか、という話だ。いまどきの離婚のように、パパとママは夫婦ではなくなるけど、パパはいつまでも君たちのパパだから、みたいなことは一切なく、潔く人生からいなくなったので(結婚式に呼んでしまったことはとても後悔している)、もはや父子関係という感覚はまったくないのだった。
 ただし父の葬式が、腹違いの妹を目にする、人生で最初で最後のチャンスかもしれない、という思いはある。両親の離婚は、この腹違いの妹の受胎が決定的な要因ということでどうやら間違いなく、だとすれば離婚が僕の小学2年生の頃だったので、腹違いの妹は僕よりも10ほど年下ということになる。
 僕には、会ったことがない10ほど年下の腹違いの妹がいる、という事実は、両親の離婚の真相をなんとなく察した大学生くらいの頃からずっと頭の中にあって、今ごろ10歳くらいか、とか、今ごろ20歳くらいか、などと人生の節々で思ったりしたが、そんな彼女ももう30歳になんなんとするはずで、嘘だろ、と思う。いちども目にしたことがないけど、あの子がもう30!? と衝撃を受ける。少女という印象が強いから。見たことないけど。