2020年4月10日金曜日

入学・干支4コマ停止・カナリア

 ピイガの入学式が執り行なわれる。行なわれたのだ。行なわれてよかった、と思う気持ちと、行なうのか、という気持ちがせめぎ合う、たぶん関係する誰の心においてもせめぎ合っていた、そんな式だった。もちろん全員マスク着用で、窓は全開。陽射しの届かない体育館内はひどく寒かった。内容ももちろん短縮版で、来賓の挨拶などは一切なし。これは卒園式もそうで、なによりだと思った。疫病とか関係なくいつもぜんぜん要らない。
 あと印象に残ったところでは、担任紹介の際、教員ももちろんマスクをしているのだが、しかし「3組、ナンヤラ先生」と紹介されたときだけは、さすがにマスクを外して顔を見せていて(もちろんマスクを外した状態では喋らず、そしてまたすぐに着け直す)、紹介された人はマスクを外すというその流れが、仮面を外して次々に正体を現す悪の軍団のようでおもしろかった。たぶんその中には、てっきり死んだと思っていたかつての親友なんかもいるんだろうと思う。それと上級生からの言葉、校歌紹介のくだりでは、いったいどうするんだろう、いちばん歌の上手い子がソロで唄うんだろうか、などと考えていたら、なんと音声テープだったので、なるほど、と思った。でもその場にいない少年少女の声だけが響き、誰もいない壇上のほうを全員で眺めている情景というのは、ずいぶんシュールな感じで、でもやっぱり笑ってはいけない感じもあり、そわそわした。もしかしたらそのうち蝶野正洋が現れ、校長先生をビンタするのではないかと思ったが、そんなことはなく式は終了した。「ピイガの入学式はちょうど……」と、後々語り草にしやすい入学式だな、と思った。かくしてピイガは小学生になった。あのちっちゃい子が嘘だろ、という気持ちが拭えないし、始まった小学校も完全な形での登校とはならないようで、そういう意味でも嘘だろの疑いがあまり晴れず、なんとなくモヤモヤする。

 干支4コマが完全に停止した。タイトルデザインに東京オリンピックの幻のロゴを(モチーフとして)採用し、オリンピックを意識して急遽はじめた今年の干支4コマだったが、コロナの深刻度が増し、オリンピックの延期が発表になり、緊急事態宣言が発令されるという、刻一刻と状況が変化する中で、すっかり身動きが取れなくなってしまった。まあ全12話の、ちょうど半分までが終わったところなので、後半はまた年の終わりにやろうと思う。2020年という年を冠に据えた4コマを、この4月時点で完結させてしまうのは、どうしたって無理がある。後半、ちゃんとのどかに笑えるようになっていたらいいなと思う。ちなみに作中において「今年の干支漫談は初の無観客開催だ」というネタがあったが、たしかに3月の時点では、無観客開催だったのである。しかし大相撲がそうであるように、もう事態は無観客ならいいという段階を超えてしまった。だから連載も中断する。今年の干支4コマは現実とのリンクがすごいな。

 換気のために窓全開の入学式において、僕の鼻水はズビズバ溢れ出て、ずっとティッシュで鼻をかんでいた。その様子をあとからファルマンが笑い、「あなたってちょっと布団の上げ下ろしをしてもすぐに鼻が止まらなくなるし、本当に敏感だよね」といじってくる。それに対して少しムッとした僕が放った、「俺は鼻の中にカナリアを飼っているんだ」というフレーズが、我ながらちょっとおしゃれだと思った。鼻炎のことを、これからは鼻カナリアと呼ぼう。