これからの3ヶ月あまりは、プールには行かず、家に籠り、新たに導入したトレーニングベンチを使って、ストイックに筋トレに励むこととしたため、せっかくならば現在の初冬の僕と、励んだ暁の初春の僕の、ビフォーアフター画像を撮ることにした。というわけで年末で相変わらず仕事が忙しいファルマンに頼んで、パンツ一丁になったところを、死んだ目で撮影してもらった。人の目ってこんなに死ぬことあるんだな、というくらいに死んでいた。
それで保存されたビフォー画像を見たところ、「ひっ!」となるくらい痩せていて、衝撃を受けた。ビフォー画像なのだからそれでいいのだともいえるが、それにしたって、そもそもビフォービフォーとはいうものの、完全なビフォーではなく、これまでもそれなりに腕立て伏せとかはしていて、プロテインも日常的に飲み、主に大胸筋を狙って筋トレはしていたのだ。それだのに、横から撮った画像では、大胸筋よりもあばら骨のほうが前に突き出ている。なんやそれ。欠食児童か。これまでも鏡で自分の体を目にした際、わきの下のあたりに3本くらいの筋が浮き出ているのが見えて、肋骨だろうかという思いが頭によぎりつつも、いや筋トレしてプロテインを飲んでいる俺に限ってそんなはずはない、これは腹斜筋、あのセクシーなやつだよ、と自分に言い聞かせていたが、死んだ目カメラマンによる、被写体を良く撮ろうという意思が皆無の写真によって、いよいよ弁明ができなくなった。60巻で「俺は! 弱い!」と気づき叫んだルフィのように、僕も認める。「俺は! 痩せてる!」。
画像にショックを受けていると、死んだ目キャメラマンが、「だってあなた成人男性にしてはぜんぜん食べないもん」と冷たく言い放つ。そうなのだ、ちまちまとお茶菓子とかおつまみとかは食べるけど、ガツンと量のあるものは食べられないのだ。牛丼チェーン店でも、並盛でお腹いっぱいになる。筋トレよりも、まずはそこかもしれない。あと家族とは別でひとり、わざわざ低脂肪乳や無脂肪乳を買って飲んでいたが、これももうよそうと思った。脂肪分、俺は取るべきだった。俺は! 痩せてる! から!
まあでも本当にね、プラス思考でいえばね、いいビフォー写真だったと思いますよ。見とけ、と思いますよ。同じ構図、同じ立ち位置で撮影したら、フレームに収まらないと思いますよ、3ヶ月後の僕は。
職場にナカダさんという人がいて、ぜんぜん珍しい名前ではないような気がするのだけど、どうもスムーズに呼べない。なぜだろうと考えて、僕の人生、実生活はもちろんのこと、メディアや創作も含めて、これまでナカダさんなんて存在しなかったんじゃないかと思った。名前を呼ぼうとすると、どうしてもナカタか、あるいは(漢字が違うが)ナガタになりそうになり、いつも言いよどむ。意外な難易度だと思う。僕だけだろうか。
年末年始、実家に帰省するつもりだったが、取り止めた。
前にもいったように、車で行くつもりだったのだけど、年末年始の高速道路って、それだいぶ危険が伴うやつじゃん! ということを、冬の気配が色濃くなってきたところでようやく思い至り、立ち往生であるとか、スリップ事故であるとか、嫌な想像ばかりが膨らんで、そこまでのリスクを負ってまで正月に帰ることはあるまいと、普通にやめた。代替として、夏だとちょっと先過ぎるので、春とか、GWとか、そこらへんで考えている。
素直に公共交通機関を使えばいいじゃないかという意見もあるだろうが、なにぶん田舎暮しが長くなり、公共交通機関というものからすっかり疎遠になってしまっていて、そのため警戒心が強まってしまっている。新型コロナは、もちろん理由として全国的にまだ通用するだろうが、それに加えて、これはもう我ながら田舎者の感覚だなと思うのだが、小田急だの京王だのの事件を見るにつけ、都会の鉄道おぜえ(おそろしい)、という思いが募り、あとよく考えたら地下鉄ってチョーおぜえじゃん、と横浜出身島根県民としてそんな感情を抱く。我ながら信じられない。あの田園都市線に毎日乗り、渋谷で井の頭線に乗り換えていた、この僕が。「満員電車がつらい」といっている人の話を聞いて、(こいつはなにをいっているんだ、満員電車は自立しなくていいからむしろ楽だろ)と思っていた、この僕が。すっかり人格が変わってしまった。
鉄道以外にも、飛行機という手もあり、鉄道では特急やくもと新幹線というふたつに乗って7時間弱かかることを思えば、1時間半で着く飛行機一択という考え方もあるが、飛行機は、まあ、うん、本当に火急の場面でしか、絶対に乗りたくないので、そこは勘弁してほしい。