いつものサウナに入っていたら、ちょっと珍しく若者のグループがやってきた。高校生のようだ。いつも腹の突き出たおっさんしかいないので、その若さと細さに驚いた。
その若者のひとりが、仲間の若者に向かって、こう問いかける。
「なあ、タピオカの次に流行るものって知ってる?」
なになにその話、と食いついた。なんて興味をそそる導入だろうか。
するとそれに対して、問いかけられた若者はこう答えた。
「知ってるよ。バナナジュースだろ」
ええー! と心の中で驚きの声をあげた。いつものようにタオルを頭に被せながら、目を瞠った。
タピオカの次はバナナジュース……、そういわれてみればたしかにありそうな絶妙のポイントだな……、しかしこの取って付けたような会話は本当だろうか……、なんか芸人のネタとかじゃないのか……、などと思念が渦巻いた。
帰宅してからネットでバナナジュースを検索したら、なんか本当にそういうことをいっている人たちがいるようだった。若者のブームを生の声で先取りした、と思った。
腹の突き出たおっさんたちは、場所中なので相撲の話に花を咲かせていた。田舎のおっさんどもはやっぱり外国人力士が嫌いなようで、メタメタにいっていた。稀勢の里や御嶽海にばかり声援を送り、白鵬へはブーイングをする勢いの観客ってどういう人たちなんだろうと思っていたが、なんのことはない普通のおっさんたちなのだった。
その中で炎鵬の話題になり、「炎鵬はいいなあ」「炎鵬は小さいのによくやってる」と、おっさんたちはやっぱり小兵力士のことも好きであるらしかった。その話の際に、ひとりのおっさんが炎鵬のことを「れんほう」といってしまい、他のおっさんたちが「蓮舫はちがう」「蓮舫て」と総出でツッコむ、という一幕があった。
そしてそのうちのひとりのツッコミがこうだった。
「炎じゃあ」
この言い方が、さすがは岡山、リアルノブで、なんだか感動した。
斯様に地元密着の浴場に、もちろん顔見知りがいるはずもないので終始無言で、そしてそれなりの頻度で通っているのだが、たまに館内アナウンスが掛かり、「……近ごろ盗難事件が多発しております。貴重品の管理には十分お気を付けください……」みたいな内容が流れると、身に覚えなどないのになんだかうすら寒いものを感じる。この環境で、本当に盗難事件があったらば、僕のような存在は真っ先に疑われるのだろうな、と思う。