本当にあった怖い話をひとつ。
平日の退勤後にプールに行ったときの話です。その日は、プールに行くことを朝から心に決めていたのですが、そんなときに限って仕事が忙しく、普段の退勤よりも1時間半ほど遅くなってしまったのです。それでもやはり泳ぎたい気持ちが強かったので、少しだけ泳いで帰ることにしました。そう決めたら、それはそれで愉しみな気持ちが湧いてきました。それというのも、普段行く時間帯に泳いでいる人たちというのは、顔見知りというわけでもないのですが、どうしたってだんだん顔を覚えてくるもので、ああ今日もあのじいさんがいるな、あのムキムキの男がいるな、そして私が2日おきだったり3日おきだったりに行ってもいつもいるということは、この人たちはたぶん毎日ここに来ているんだろうな、なんてことを思うわけですが、今日はそれが1時間半も遅いので、泳いでいるメンツがぜんぜん違うはずです。遅い時間ということで、閉館時間まで泳ぎ続けるようなよほどのガチ勢が多いのではないか、ガチ勢にレーンを占拠されて、入る隙がなかったら少し嫌だな、なんてことを思いながら、私はプールエリアに出たのです。するとなんだか嫌な感じがするんですね。なんだろう、嫌だな、怖いな、と思いながら、私はそろりそろり、プールへと向かいました。そしてたどり着いたとき、そこに広がっていた風景に、私は腰を抜かしそうになりました。
それというのも、そこで泳いでいたのは…………、いつものメンツだったからです。
キャーーーーーー! (女性の悲鳴)
先日、子どもたちの運動会が執り行なわれ、夫婦で観覧した。この2年は、運動会自体がなかったり、あっても保護者の観覧不可であったりしたため、だいぶ久しぶりというか、ピイガに至っては小学校の運動会に出ているのを観るのが、3年生にして初めてだった。
しかしなんとか開催にはこぎつけたものの、やはり簡易版ということなのか、演目は個人の徒競走と、チーム対抗で全員が参加するリレーという、全学年においてそのふたつで、だから運動会は、ほとんど短距離走会だった。ずっと誰かしらがひたすら走っていた。
感染対策であるとか、時間短縮であるとか、いろいろな理由はあるのだろうが、しかしあまりにもシンプルで、シンプルと言えば聞こえはいいが、まるで文明がない世界のようだな、とも思った。戦後、物資はなにも満足になかったが、しかし希望だけは満ち溢れていた、みたいな、そんな感じ。それでいて、別に人々の心に希望は満ち溢れていない。
インスタグラムで、外国の、説明不要で「わー!」となる画像や映像が垂れ流される様を眺めていると、文明が成熟した果てには、こんな原始的な風景が広がっていたのか、と虚しい気持ちになったりするが、道具もややこしいルールもなくただ走るだけの運動会にもまた、同じような感情を持った。きっと感覚が古いんだろうな。ぜんぜんSDGsじゃない、無駄で余計なものに浸って生きてきたので、最小公倍数のような清貧の世界に、違和を抱いてしまう。居心地悪くなってしまう。頑固親父、まっしぐらである。
ピザを作る。GWに母から生地のレシピを教えてもらい、ずっと冷蔵庫に貼ってあったのだが、ここまで手を付けずにいた。言い訳をするなら、かつてファルマンが買い、ポルガの出産前後に10回くらい食パンを焼いたあとは放置され、どこかのタイミングでファルマンの実家に渡っていたホームベーカリーを、混沌という名の屋根裏部屋から回収するのに時間がかかったのだ。それが成ったのが8月だったので、暑さとかもいろいろあり、さあそれではピザ生地というものを初めて作ってみようかな、となるのがシルバーウィークになってしまったのも、致し方ないと思う。しかし改めて母にLINEで教えを乞いながら製作したところ、ここまで引っ張ったのが阿呆らしくなるほど、簡単なことだった。材料を分量通りに内釜に入れ、あとはコースを設定して作動スイッチを押せば、じきに生地はできあがった。それだけだった。それを伸ばして、ピザソースを塗り、用意していた具を乗せて焼いたらば、紛うことなく立派なピザだった。普通においしい。なんの問題もなく、1回目から万全においしいピザができあがった。どうやらピザもあれだな、シュウマイと同じ部類で、作ったことがない人には手間がかかるように見えて畏敬の念が集まりがちだけど、いざ作ってみたら想像よりもはるかに簡単という、対外的コスパに優れた食べ物のようだな。こんど仲間の誰かのホームパーティーの誘いがあったら、絶対に持っていくことにしようっと。